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大阪地方裁判所 昭和50年(ミ)6号 決定 1977年12月14日

更生会社 東亜興産株式会社

右管財人 山田利夫

主文

本件会社更生手続を廃止する。

理由

一、当裁判所は、更生会社に対し昭和五〇年九月一〇日午前一〇時更生手続開始決定をして更生計画案の提出期間を同五一年九月三〇日までと定め、その後右提出期間を同五二年三月三一日まで伸長する決定をしたところ、管財人より右期間の末日に更生計画案(以下本計画案という)が提出された。

二、よって本計画案につき考えるに、一件記録、管財人の報告その他当裁判所の調査の結果を総合すると、本計画案は以下述べるとおり関係人集会の審理若しくは決議に付するに足りないものというべきである。

1. 更生会社は、主として別荘用土地販売を業としているものであるが、その負債、資産および業務の概要はつぎのとおりである。

(1)  負債

(イ)  更生担保権二一億一九九三万〇八三一円(うち二億一七一四万六八五〇円は更生手続開始後一年を経過するまでの損害金)。金融機関等一九件。

(ロ)  優先的更生債権

公租公課三億六九〇九万七五〇八円。大阪国税局等約八〇件。

賃金債権六一二七万三四七二円。山本修一ほか一〇〇件。

(ハ)  一般更生債権

二〇億〇一四四万五八八一円。

(内訳)

(A) 造成工事履行請求権約八億四〇〇〇万円(造成工事費用相当額)。約一二〇〇件。

(B) ゴルフ会員保証金返還請求権二億九〇九八万〇〇七二円。阿形正雄ほか一七一件。

(C) ハリマ荘園賃借保証金返還請求権三一九〇万円糸永稔ほか六一件。

(D) 日吉ニュータウン等賃借保証金返還請求権八八六九万円。安東幹夫ほか二五件。

(E) その余は安本建設株式会社等約一八〇件の金銭債権。

以上(イ)ないし(ハ)の合計四五億五一七四万七六九二円は確定債権額であるが、他に昭和五二年一〇月三一日現在の未払共益債権が一億〇五五一万一三四九円、未確定更生担保権約一億四〇〇〇万円、未確定更生債権約一億一〇〇〇万円がある。

(2)  資産

管財人が会社更生法第一七七条に基づき行った昭和五二年一月三一日現在における会社財産の価額の評定は、販売用等の土地六〇億二三五四万八〇一三円(約三四〇万平方米)その他二億九八三四万二〇四五円であって、現在においてもその内容に著しい変更はなく、前記(1)の負債の弁済源資は主として右販売用等の土地をもってこれに充てるほかない。右土地は数府県に亘って数十ケ所存在するがその内容はつぎのとおりである。

(イ)  完成済団地約二五万平方米(別表A記載のとおり。)

十数ケ所に存在するが、近い将来に住居用土地として利用できる部分は僅かで、その余の大部分は山間部に偏在しており道路用敷地、斜面等を除き販売可能な用地は数万平方米にとゞまるとみられるうえ大半は住宅用地としての需要に乏しく他に転用も困難である。

(ロ)  造成中団地約一一九万平方米(別表B記載のとおり。)

数ケ所に存在しているが前同様山間部に偏在しており、道路等一部の造成工事が終っているのみである。造成工事を完了した場合に近い将来住居用土地として需要の期待できる部分は数万平方米にとゞまるものとみられ、その余はいわゆる別荘用、レジャー用土地として利用するほかない。

(ハ)  未造成土地約一三二万平方米(別表C記載のとおり。)

十数ケ所に存在し前同様山間部に偏在し、当面の販売は困難である。

(ニ)  ゴルフ場用敷地約六三万平方米(別表D記載のとおり。)

三重県阿山郡阿山町に存在するが、道路その他で約二〇パーセント程度の工事がなされているにすぎずゴルフ場として完成するには二十数億円が必要で住宅用地その他に転用も困難である。

2. 本計画案の検討

(1)  更生会社の所有する販売用土地はその殆どについて現状のまゝでは換金が困難で、販売可能な造成工事を行うには多額な資金を必要とするがその資金はない。また前記ゴルフ場用地の造成工事資金はもとよりないしこれが処分も困難な事態にある。

そこで本計画案の骨子は、(一)更生担保権に対する支払は原則として前記各土地の一部を代物弁済として提供すること、(二)優先的更生債権のうち公租公課の大部分である三億五三二一万円余の支払も前同様土地の一部を代物弁済として提供すること、(三)一般更生債権についてはその種類に応じ三割ないし七割の免除を受けたのちその支払は大部分につき前同様土地の一部を代物弁済として提供することとしている。

(2)  しかし確定更生担保権の四分の三以上を有する債権者三名が細部は別として本計画案に反対する意向を示したので管財人がこれを一部修正した案を呈示してみたが、不同意であることが明らかとなった。右三名に対する本計画案ないし右修正案は、前記代物弁済のほか比較的短期間に換金が見込まれる土地に対する抵当権設定登記の抹消を求めこれを処分して運転資金、弁済資金等に充てることを目的としている。右三社の利害は互に対立する関係にあるため、そのうち一社が満足する計画案は他の二社を満足せしめず、更生会社の保有する資産内容および将来の営業の見通しからみても、更生担保権に関し関係人集会において法定数の同意を得るに足る更生計画案の策定は不可能とみられる。

(3)  つぎに優先債権のうち公租、公課の支払につき、代物弁済によるとの前記計画案については二億〇八六五万円余の租税債権を有する大阪国税局の同意を得ることは不可能であることも明らかとなっている。

(4)  さらに、一般更生債権者のうち前記1(1)(ハ)(B)のゴルフ会員保証金返還請求権については本計画案によれば五割の免除を受け免除後の債権額一億四五〇〇万円余につき一名の更生担保権者の免責的債務引受をすることとしているが、同担保権者がこれに同意しないことも明らかとなった。

(5)  もっとも一般更生債権者のうち造成工事請求権を有するものの一部が管財人に対し本計画案に賛意を示している。

(6)  最後に本計画の修正等の可能性につき考える。本計画案については更生担保権者につき法定数の同意を得られる見込はなくその同意を得るに足る修正も不可能であることはさきに述べた。そして更生手続開始決定後二年余の会社業務の運営をみると、一部の未造成土地に造成工事を行ってこれを販売したがその額は極めて少額で、殆どが以前に更生会社の土地を購入した顧客がその土地を更生会社に売戻し他のより有利な土地を購入するといういわゆる振替販売によるもので、新規の販売活動は僅少であった。更生会社の販売用地は概ね別荘用、レジャー用向け土地が多く、右振替販売を求めた顧客も近く住宅地として利用することよりも投下資本をより有利なものに変えることが目的であったことがうかゞわれる。また未造成地のうち造成工事を行いつゝこれを販売することができれば運転資金を捻出することの可能な土地も存するが、過去二年余の販売実績、土地需要の低下、ことに別荘用土地を投機的な意図で購入する顧客が著しく減少している状況からみて、多少の造成工事を行ってもこれによって弁済資金を捻出することは極めて困難が予想される。

しかも未払共益債権はすでに一億円余を超えていること、現金で支払を要する前記国税局に対する公租、公課約二億円の捻出は不可能なこと、さらに毎年課せられる特別土地保有税は年間二〇〇〇万円を超えること等を考えると、現下の状勢のもとで実行可能な更生計画案を策定することは不可能なものといわざるを得ない。

また、更生計画案につき関係人集会において法定の額又は数以上の議決権を有する者の同意を得られなかった組があった場合に、会社更生法第二三四条による認可のできる可能性はなく、同法第一九一条に基づく計画案は同法第二〇五条により更生担保権者全員の同意を要するがその同意を得るに足る計画案を作成することも不可能とみられる。

以上のとおりであるから、本計画案は関係人集会の審理若しくは決議に付するに足りないものというべきである。

三、当裁判所は、更生会社につき(一)販売用土地の計画的な有利な販売、(二)前記阿山ゴルフ場用地(管財人評価約二三億円)の売却若しくは適正な運用による資金化等を図ることによって更生の見込がないものとはいえないとして更生手続開始の決定を行ったのであるが、右(二)の阿山ゴルフ場用地の売却ないし有利な運用が不可能であることが明白となったこと、右(一)の土地販売は前項で述べたとおり過去二年余の実情に照らし多くを期待できず、一件記録によれば特別土地保有税その他未払共益債権は累積しているがその支払も困難であり、以上の事実と前項記載の各事実に照らすと更生会社はもはや更生の見込なきものといわざるをえない。

四、よって会社更生法第二七三条第一号および同条の二を適用し職権により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 首藤武兵 裁判官 菅野孝久 池田和人)

<以下省略>

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